INTERVIEW 02「ここちを美しく」を体験する空間って何だろう?

MMA Inc.
工藤 桃子
オルビス株式会社
小椋 浩佑
Takram
緒方 壽人
写真:対談風景

「ここちを美しく」を体現する空間とは一体・・?コンセプトを煮詰めるプロセスも一緒にできたからこそ今では阿吽の呼吸で理解し合えるまでになった、3人のお話をお聞きします。

小椋リブラディングの一環で、オルビスのミッションを改めて検討しました。その中で佐藤卓さんにも入っていただき、半年以上かけて「ここちを美しく」という言葉をつくりました。 SKINCARE LOUNGE BY ORBISは、ブランドのあらゆる顧客接点の中でも一番体験を尖らせたいというのがあったので、最初の「『ここちを美しく』を体験するって何だろう?」という検討期間が長かったですね。 工藤さんは、それを考えるのが大変だったんじゃないかなと思っています。いかがですか?

工藤そのプロセスが面白くて。設計って、コンセプトが決まってから呼ばれることが多いんです。でもオルビスさんの場合はかなり早い段階から合流して3社間で詰めていけたので、 「『ここちを美しく』って何だろう?」っていうのをちゃんと話せたかなと思います。

緒方煮詰まるプロセスも一緒にやりながらというのが面白かったですね。

小椋「ここちを美しく」という言葉が決まる前に、「ヒーリングバイサイエンス(科学による癒し・ここちよさ)」という前段階の言葉があったんです。 品質では他社さんに負けないという絶対的な自信があるんだけど、化粧品の会社ってついつい「これだけ品質がすごいんです」っていうような、いかに優れているかの争いを始めちゃうところがあるんですよね。 でも僕らは、ふと見た時に、感覚的になんか素敵かもしれない、って当然最初に思ってもらいたい。そのあとによくよくちゃんと見たら良い商品だと伝わる。そんなことを狙って考えた言葉だったんです。 ただ、「ヒーリングバイサイエンス」だと英語っていうのもあってお客様に伝わりにくいかもしれないという懸念もあって、少し抽象化して「ここちを美しく」という言葉を作りました。

工藤言葉もかなり議論しましたね。ここちって何?っていうところから、「ここち」と「ここちいい」とか言い方含め、日本語のニュアンスとしてどう捉えられるのか。

緒方それで言うと、2つの意味がそこに入っているような気がしていて。最初の提案のときは「Feel First Learn Later」という言葉を考えていたんです。僕らもオルビスさんと同じく、デザインやエンジニアリング、テクノロジーみたいなものをどうバランス良く使っていくかを提案するのを強みとしています。なので僕らも、色々な展示などの作品を作る際は、まずは感じてもらうのが最初で、 次に知ってもらうという順番が大事だと思っています。 「ヒーリングバイサイエンス」も共感できるし、アンチエイジングの先に行きたいというのも共感できる。年齢に抗う、頑張る、といったように無理をするのではなく、ここちよくいることが美しさにつながる、というメッセ―ジもいいなと思いました。 なので、そこが大きなコンセプトになったかなと思っています。

「そのものが持つ本来の美しさや、力を引き出す」という考え方を大切にしたい

写真:オルビス 小椋氏

小椋オルビスの創業当時はバブルのど真ん中で、世の中は豪華なものや、とにかく高価で良いものを肌に足していくような考え方が主流でした。そんな時にオルビスは尖っていて、デザインもほとんど無いようなボトルの商品を透明のビニール袋に入れて発売して、逆に世の中に刺しにいったところがありました。 その時のものづくりの思想として、素材が本来持っている良さを活かして商品づくりができないかという考えがあったので、オルビスユーもその考えに立ち返ってつくったものです。肌本来の美しさを最大限引き出すという文脈は、時代が変わっても大切にしたいという想いがあったんですよね。 その観点で言うと、工藤さんは、元々持っているものや素材を活かすという意味で、建築で使う素材選びなんかに苦労されたんじゃないですか?

工藤素材探し合宿、いきましたよね!建築はスケールがかなり大きいので、最後まで人が作っているという印象を持ちにくいんですが、高層ビルもネジ1本1本、人が締めているんです。建築に使われる素材自体も、工業製品に見えるけど実際はタイルなんかも職人さんが作って磨いてるとか、そういうものの作られ方やプロセスを理解するのは大事かなと思っています。 オルビスのコンセプトにも通じると思うんですが、そういったもので自分を大事にしたり、自分自身が理解できる店舗ができるといいなと思っています。「Feel First」でその部分が理解できるとか、良いですね。 そういえば物件探しも苦労しましたよね!一旦表参道、青山という場所は決めて、何軒も見て選んで…。あの時はポイントとして、建物に引きがあるとか、ゆとりがある場所を選ぼうという話をしてましたよね。

緒方すごく覚えてるのが、どこかの提案のタイミングで、元々場所が決まってるけど、全く物件が決まらない中で仮想の空間のプランを描いてみたことですね。そのとき描いたのが、角の物件だといいよね、天井は高いほうがいいよねみたいに理想を語っていたプランだったんですけど、出来てみれば相当近い空間に巡り会えた気がしますね。

工藤建物のエリアもあの時からあまり変わってないですね。2階にセミパウダー(メイク直しスペース)があったりとか、入り口に入ってすぐに水の場所があるとか。あの時すでにコンセプトと空間が、かなりつながっていた気がしますね。

写真:MMA 工藤氏

小椋「Feel First」の文脈にきちっとあてがうようにしていたので、入り口はカジュアルに入れるけど、お店の奥や2階に行けば行くほど深い体験になっていく、というのを意識できましたよね。 色んなものを理解するのが気持ちいい、うれしい、ここちいい、と感じられるような設計を目指していたんですが、出来てみればほぼ設計通りになってました。

工藤ジャーニー(お客様の体験や行動)が辿れる空間になってますよね。

小椋工藤さんのお話で思い出したんですが、オルビスって化粧品のブランドとして、デジタルの分野も相当力を入れてるんです。でもやっぱりデジタルが先行するんじゃなくて、相手のことを想って、デジタルで「ここちよく」つなげることが大切だと思っていて。社内でも、デジタルを使ってそれをどう提案できるか?という話をかなりしています。 今回はSKINCARE LOUNGE BY ORBIS の1階でも、緒方さんがデジタルの部分をかなり進めてくださっているんですが、デジタルバキバキのハイテクなんですというやり方ではないですよね。温かみを感じるデジタルの表現や、今の時代にフィットするデジタル表現って何だろう?っていう視点でも相当考えてつくってくださってますよね。

緒方オルビスの最初のブランドビジュアルもそうでしたが、「ここちを美しく」というコンセプトの周辺にあるようなキーワードの中に、「ここちよい状態って自分と周辺の境界がなくなったような状態なのかもしれない」という想いがあって、それがけっこう色んなところに活かされていますね。空間に余白があったり、1階は外が続いているような雰囲気があったり。あとは、JUICEBARの窓はどうしても開けたいよねとか(笑) デジタルもそれと一緒ですね。プロジェクションにしても境界が分からないような見え方にしたり、空間に浮かび上がるようにしたり。LEDもピクセルがそのまま見えるものではなくて、空間になじませて見せるようにしたり。そんなことを意識しました。 リアルとデジタルが良いバランスでできた気がしますね。

写真:Takram 緒方氏

(敬称略)