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『幻の朱い実』|ひとり時間は読書時間#9

心がほっとあたたかくなったり、生きるヒントを得たり……。幸せな気づきを与えてくれる一冊を、コラムニスト・山崎まどかさんが紹介します。

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休日の一冊

『幻の朱い実』(岩波現代文庫)
石井桃子・著
児童文学にうち込みながら、心の奥底に温め続けた著者生涯のテーマを書き下ろした全2冊の長編。

A・A・ミルンの『クマのプーさん』をはじめ、数々の名翻訳で知られる石井桃子さん。彼女が87歳で発表した自伝的な小説がこの作品です。8年の歳月をかけて書き上げた物語には、彼女の思いがこもっています。

舞台は1930年代。主人公の明子は秋の武蔵野を訪れて、女子大時代の上級生だった蕗子(ふきこ)と再会します。病弱で静養しながら留学生に日本語を教えて細々と暮らしている蕗子には作家との恋愛の噂もあり、明子にとっては神秘的な存在でした。しかし2人の出会いは熱い交流へと変わっていきます。太平洋戦争前、自立しようと懸命に働いて生きる女性たちを巡るすべての描写が愛おしく、泣きたくなるような物語です。

2人で過ごした海辺の休暇や、交わした手紙の数々。しかし2人の絆は明子の結婚をきっかけに解けはじめ、蕗子は病に倒れて帰らぬ人になります。しかし2人の友情はそこで終わりではありません。蕗子の人生の道筋を老齢になった明子がたどるとき、思い出は烏瓜(からすうり)の実の色のように鮮やかによみがえるのです。

 

Profile
山崎まどか
コラムニスト、翻訳家。『ビバ! 私はメキシコの転校生』(偕成社)でデビュー。著書に『優雅な読書が最高の復讐である』(DU BOOKS)など。

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