15歳で死んだ愛犬は、いつも私にくっついて朝まで寝ていた。
たまに冷えるのかヒーターの前に寝に行って、温まって寝どこに帰ってきたので天然の湯たんぽみたいだった。
いなくなっていちばん淋しかったのは、あの重さと熱さがお腹のところからなくなったことだった。
やはり数年前に死んだもう1匹の愛犬は、なぜかいっしょに寝ようとしなかった。最初はベッドに上がってくるのだが、私が寝たのを確認すると、「やれやれ、今日の仕事も終わったよ」という感じでベッドを降りるのだ。
私はいつも寝たふりをして薄目を開けその様子を見て、笑い出したくなっていた。寝ているかどうかをちゃんと顔のあたりまで確認しに来るのがおかしかった。とてもいい思い出だ。
それぞれがどんな役割を感じていたのかわからないけれど、私のことを全身全霊で思ってくれていることだけはわかった。
朝までいっしょにいてくれようと、すぐ去っていこうと、あのぬくもりを私が大切に思ったことに変わりはない。
今飼っている犬と猫はだいたい年齢が同じなので、いっしょにするとなわばりを争い合ってベッドの上でプロレスを始める。
これでは寝ていられないということで、今のところ犬は下の部屋で、猫は寝室でいっしょに寝るということにした。
だから犬のぬくもりがなくて淋しいのだけれど、それを察してくれるかのように私がリビングのソファーで昼間うたた寝をしていると、犬がくっついてくる。いっしょに昼寝をしていると、なぜか疲れが抜ける。犬が吸い取っているのではないかと心配になったけれど、見ているとそんなことはないみたいだ。犬も私も安心してぐっすりと寝ている。目がさめるとお互いが元気になっている、そんな感じだ。
「もうそろそろ起きなくちゃ」と言うと、犬もいっしょに起き上がる。
種族が違うのにこんなふうに通じ合えることは、幸せなことだ。
夜いっしょに寝ていないから、朝起きてリビングに行くと、ものすごく尻尾を振って犬が迎えてくれる。その大歓迎ぶりに毎日新鮮に感動するから、これはこれでいいみたいだ。
たまに子どもが遅くまでリビングで起きていて犬が寝不足なときなどは、私が起きていっても犬は気づかないで爆睡している。
「おはよう」と声をかけると、「はっ、気づかなかった、寝てました、すみません!」という感じであわてて寝ている椅子から飛び降りてくる。
あまりにも面白かわいくて、それはそれで楽しみなのだ。
PROFILE
よしもとばなな:1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30カ国以上で翻訳出版されている。近著に『吹上奇譚 第三話ざしきわらし』などがある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。
イラスト/牛久保雅美