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熱さ|ここちよく#7-吉本ばななー

作家・吉本ばななさんがここちよいと思うもの・ことについてつづるエッセイ。

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VOL.7 熱さ
とっても熱いものや冷たいものは体によくない。それはほんとうのことだと思う。
私は朝、夏でも白湯を飲むのだが、体が急激に温まっていくのがよくわかる。
中国やベトナムではビールを冷やさないというのもよくわかる。
でも、たまには熱々や冷え冷えでいいのではないかというのも、すてきな考えだと思うのだ。

幼い頃、初めて自動販売機に熱い缶コーヒーが登場したときのことをよく覚えている。そんな話をしていると「ほんとうに長く生きてきたんだなあ」と我ながら驚くけれど。
まだコンビニがこの世になかった頃だ。
夜遅くに姉といっしょに歩いてその自動販売機に行って、甘くて熱いミルクコーヒーを買う。カフェオレ的な考えにおいては決しておいしいものではなかったそれだが、寒い夜には、コートのポケットに入れてしばらく暖を取った。今みたいに微妙な温度調整機能がないからか、その缶はすごく熱かった。だからポケットに入れてしばらく冷ましてちょうどいいくらいで、取り出してもポケットはまだ温かく、コーヒーは熱々だった。
あのおいしさのうちには、極端な甘さ、そして熱さも入っていたんだなと思う。

原稿を書いていてへろへろになったとき、熱湯でハーブティーを淹れる。ほんとうは熱湯でないほうがおいしく出るのだが、勢いがほしいから熱々の濃いお茶を作って、はちみつやきび砂糖をちょっと入れる。冷まさないでちびちび飲むと、糖分と熱さで頭がしゃっきりしてくる。
そのような切り替えは魔法のように人に力を取り戻させてくれる。
そんなときいつも、あの幼い日の夜道を思い出す。この飲みものが区切りになる、そんな気分を。
心地よさというのは、そうやって緩急をつけて自分で作り出すものなのかもしれない。そんな技をたくさん持っている人ほど、人生は豊かなのかも。

いつかとある県のボロボロの民宿に子どもとふたりで泊まることになり、晩ごはんを駅前で軽く済ませ、夜中にお腹が減るかもとコンビニでカップ麺を買ってきた。夜中になってふとポットを見ると、なんとコードがついてない。それは昔ながらの「魔法瓶」だった。宿の人たちはとっくに寝ていた。中に入っていたお湯だったものはすっかりぬるま湯になっていて、私たちはそれでじっくりと麺を戻して食べたけれど、悲惨な味だった。
ポットで沸かす熱いお湯をあれほど恋しく思ったことはないけれど、今となってはそれこそがいい思い出になっている。

PROFILE
よしもとばなな:1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30カ国以上で翻訳出版されている。近著に『吹上奇譚 第三話ざしきわらし』(幻冬舎)などがある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

イラスト/牛久保雅美

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