
発酵技術でどんな未来が作れるの?/地球にやさしい発酵環境学#1
食べものをおいしく、長もちさせる「発酵」は、食品だけでなく私たちの暮らしにも役立っています。実際にどんな場面で使われているのでしょうか。また、最近耳にする、バイオマスとの関係は?
医薬品開発、汚水の浄化も。微生物が地球を救う!?
微生物が人間のためによい働きをしてくれる「発酵」は、実はさまざまな分野で利用されています。
たとえば、抗生物質は発酵で作られ、多くの制がん剤も発酵生産されているのをご存じですか? ほかにも、洗濯洗剤、化粧品などにも使われ一般化されています。近年では下水処理に利用され、微生物による発酵で水を浄化させているそうです。
この先、発酵がもたらす可能性としては、クリーンエネルギーの生産、土に還るプラスチックの開発などがあります。地球温暖化の主な原因とされる二酸化炭素(CO2)排出量を増やさないために、人にやさしい「発酵」が注目を集めているのです。
そこでキーワードとなるのが「バイオマス」です。「バイオマスとは、生きもの(=バイオ)全体(=マス)のことですが、今は〝使われずに捨てている未利用資源〞という意味でバイオマスと呼んでいます。たとえば、生ごみを微生物の力で環境問題解決に使えるものにしたらどうか?という研究が実用化に向け、すでに始まっています」(石川先生)。その成果を、次にご紹介します。
バイオマス× 発酵で、どんな未来が作れるの?
バイオ燃料
生ごみからバイオエタノールへ。クリーンエネルギーを創出
家庭の生ごみや食品廃棄物を微生物の力、酵母でアルコール発酵させれば「バイオエタノール」に。バイオエタノールは再生可能エネルギーともいわれ、石油など化石燃料の代替燃料として脚光を浴びています。燃焼させればCO2を放出しますが、バイオマスのもととなる植物は成長過程でCO2を吸収しているため、地球規模でCO2のバランスをくずさない(カーボンニュートラル)とされます。
[まだまだこんな課題も]
未利用資源を使えば問題ないが、家畜の飼料であるトウモロコシやサトウキビを使うケースも。するとトウモロコシの供給量が低下し、食肉の価格が上昇するデメリットもある
バイオプラスチック
レジ袋や食品トレー、衣料繊維、自動車座席シートに
バイオマスを原料として、乳酸菌を発酵させて乳酸を作らせ、それをたくさんつなげたポリ乳酸(ポリマー)を利用してプラスチックのような素材を生み出します。用途は、レジ袋や食品トレー、カップ、衣料品などさまざま。トウモロコシ10粒でA4大のポリマーシートができるなど、効率のよさもバイオプラスチックの特徴です。石油製プラスチックの廃止が進む中、その価値が高まっています。
[まだまだこんな課題も]
バイオプラスチックはまだまだ高価なため、石油製プラスチックの代替製品として、現段階では紙にシフトする傾向がある。すると今度は熱帯雨林が伐採される心配も。
水素
廃棄物を発酵させて取り出した水素を電気に変える
微生物の中には、水素を作るものもあります。その水素と酸素から電気を作る装置が燃料電池です。用途は幅広く、家庭用の燃料電池はもちろん、燃料電池自動車、バス、船舶などがあります。水素は燃焼させてもCO2はまったく発生せず、エネルギーとして働いた後に残るのは水だけ。生ごみを利用して水素を得る技術が進めば、生ごみ処理の問題も解決し、エネルギーも格安で生産できます。
[まだまだこんな課題も]
水素は爆発的なエネルギーを抱え込んでいる物質のため、無公害とはいえ、万が一漏れてしまうと危険が伴う。正しく管理できれば、有望なエネルギーになる可能性は高い。
教えてくれたのは…
石川森夫先生
東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科教授・博士(農芸化学)。発酵の名門、東京農業大学で発酵について研究している専門家。『乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス』石川森夫先生 (京都大学学術出版会)、『発酵・醸造の疑問50(』成山堂書店)などの共著がある。
イラスト/はしもとゆか 取材・文/みやじまなおみ