うちに植えた木はすごく大きく育つ。
まめに様子を見ているのも意味があるけれど、肝心なのは土だろう。家のある一帯の地植えの木がみんな生き生きしているのは、土がいいからなんだなとよく思う。
前の家は陽あたりがよくなかったのもあるけれど、土が悪くてなかなか植物が育たなかった。引っ越して前の家からの木々を植え替えたとたんにめきめき育ちだしたのでびっくりした。私がどんなにがんばって水やりしても、雨がさっと降ってまた光が射したときの力には決して叶わない。
いくら話しかけても撫でても、土が悪かったら根が張らない。
自然には敵わない。この謙虚さをいつまでも持っていたいと思う。
前の家では小さかった蘇鉄も、しばらくしたら信じられないくらい大きくなった。大きくなりすぎて通れないから、泥棒さえも入れないくらいのすごさだ。葉はいっぱいに広がり、まるで南国のような風景になった。
こんなに育つなんてどうしようと思うくらい。話によると十年たってもちょっとしか育たないということだったのに、なにごとなんだろう。
そう思いながら水やりをしていたら、ある日蘇鉄のまん中に、黄色い幹みたいなものが出てきた。
蘇鉄って面白くて、あるときシャキーン!と軍隊みたいな感じで葉の素みたいなのが立ち上がって出てきて、一斉に開いて葉になるのである。
でもそのどれとも違う、とうもろこしの芯みたいなものだった。
調べてみたら、それは蘇鉄の花だった。
しかも雄花だという。そうか、雄と雌がいるのか。
初めて知った。
ちっとも華やかじゃなくて、幹と間違えてしまいそうな、地味ででっかい花。十年に一度くらいしか咲かないから、幸運を呼ぶと言われているそう。
たくさん写真に撮って、毎日愛でた。
そして思った。もしかしたらこれって、雄花だけじゃ実はならないんだろうなあ。
それに実って雌花につくんだろうなあ。
それ以来、近所を歩いて蘇鉄を見るたびに、雌花を探してしまう。すぐ近くにはないみたいだ。うちみたいに、人の家の庭でひっそり咲いていたりしないだろうか。そう思いながら。
別に何ができるわけじゃないんだけれど、できれば風とか虫が、うちから花粉を雌たちのもとに運んでくれないかなあと思うのだ。
雄花はとんがっていて、雌花はまん丸。なんだか、わかりやすすぎない?と思ってひとり赤面してしまった。
PROFILE
よしもとばなな:1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30カ国以上で翻訳出版されている。近著に『ミトンとふびん』(新潮社)などがある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。
イラスト/牛久保雅美