雨上がりに出る虹は、太陽による自然現象の一つ。「太陽の光が雨粒に当たり、屈折・反射してできるのが虹です。実際には無数の色から成る太陽の光を、音楽の7つの音階と結びつけ、虹を7色と決めたのはニュートン。木から落ちるりんごを見て、万有引力の法則を発見した彼は、自然現象からさまざまな結びつきを見い出す天才でした」
太陽は、文化にも意外な影響を与えています。「1645年から1715年にかけ、太陽の黒点が著しく減少し、世界各地が寒冷化に見舞われました。この時期に育った木を使って作られたのが、バイオリンの名器として有名なストラディバリウス。太陽光の少なさから年輪が密になって硬度が増し、それが美しい音色を生んだのです」
太陽の光は、太陽の中心で起こる核融合反応で作られます。「太陽の中はいろいろな粒子で満員電車状態。粒子が邪魔で光がなかなか外へ出られず、中心で作られた光が地球に届くまで約100万年かかるといわれます。そう考えると、太陽の光を浴びることは、時間をかけて山から染み出した湧き水を飲むような、清らかな体験に思えませんか?」
昔から太陽は信仰の対象で、神話ではさまざまな太陽神が登場します。「ギリシア神話で太陽神といえばアポロンが有名ですが、本来はヘリオス。アポロンは芸術神でしたが、時代と共にヘリオスと同一視されるように。月面着陸を目指したアポロ13号の記章にはアポロンの馬車が刻まれていますが、もとはヘリオスが乗っていたものでした」
観測の対象でもあり、暦作りなどにも活用されてきた太陽。「それがよくわかるのが、世界遺産であるメキシコ・マヤ文明の遺跡『チチェン・イッツア』。蛇の姿をしたマヤの最高神・ククルカンを祀るピラミッドは、暦の意味をもち、春分・秋分の日の年2回、蛇の頭像とピラミッドの影が合体し、ククルカンが降臨するそうです」
日本の太陽神といえるのが、神社に祀られている天照大神(あまてらすおおみかみ)。「九州から大和平定に向かう神武天皇が熊野山中で迷子になった際、天照大神がつかわした八咫烏(やたがらす)が道案内をしたという神話が残っています。当時の人々は太陽の黒点が移動する様子から、太陽=天照大神、黒点=天照大神の周りを飛ぶ烏をイメージしたという説もあります」
太陽は希望や活力の象徴として文学作品に登場します。「金子みすゞさんは、表が夕日のように赤く、裏が月のように薄黄色の月日貝から美しい詩を生みました。カズオ・イシグロさんの『クララとお日さま』は、太陽に特別な力があると信じる人型ロボットが主人公の、切なく温かい物語。読了後、太陽光の織りなす景色の見え方が変わります」
「月日貝」
西のお空は
あかね色、
あかいお日さま
海のなか。
東のお空
真珠いろ、
まるい、黄色い
お月さま。
日ぐれに落ちた
お日さまと、
夜あけにしずむ
お月さま、
逢うたは深い
海のそこ。
ある日
漁夫にひろわれた、
赤とうす黄の
月日貝。
『金子みすゞ童謡集 このみちをゆこうよ』
(JULA出版局)より
ノーベル賞作家の最新作。太陽から栄養を得て動く人型ロボット・クララと人間の少女との友情を描く。
『クララとお日さま』(早川書房)
カズオ・イシグロ・著 土屋政雄・訳
教えてくれたのは...
井筒智彦さん
宇宙博士。東京大学博士課程修了。テレビ・ラジオ・新聞・Webで宇宙の魅力を楽しく伝えている。著書に『Think Galaxy 銀河レベルで考えろ』(ぞうさん出版)がある。
イラスト/鈴木衣津子 取材・文/伊藤彩子