読み物

読み物-日々をここちよく-

高山都さんがいつも「私らしい」理由|大人には大人の美容習慣#6
深い眠りへと誘い、すっきりと目覚める簡単呼吸法|おやすみ前の“のんびり”エクササイズ#2
今日の疲れを癒し、明日を元気に迎える簡単ヨガポーズ|おやすみ前の“のんびり”エクササイズ#1
夜こそキレイの磨きどき!|大人には大人の美容習慣#5
  • ライフスタイル

1019 view

重ねるほどに美しく#4|年月を経て花開く。未来を見据えたワイン造り

第四回:年月を経て花開く。未来を見据えたワイン造り
三澤彩奈さん(中央葡萄酒株式会社)

どうすれば、自分らしく歳を重ねていけるだろう? どうすれば、今日より明日、そして数年後の自分を楽しみに感じられるだろう?「重ねるほどに美しく」は、そのヒントを求めて、さまざまな分野で活躍する美の匠を訪ねる企画です。時の経過を大切にとらえ、未来に残る仕事を続ける職人たち。ここでは、そうした職人が生み出すものと、その一途な仕事ぶりから、年月を重ねることによって引き出される魅力を紐解きます。

第三回目に続き今回も、山梨県・甲州市でワイン醸造を手がける三澤彩奈さんが主人公。時間の経過とともに深みを増す、ワインの魅力に迫ります。

この記事をお気に入りに追加

収穫期は寝る間もないほど。本気で臨む、醸造家のハイシーズン

全国一の日照時間を誇るといわれる、山梨県北杜市。この地に、12ヘクタールもの広大な面積を有する、明野・三澤農場があります。ここが、栽培と醸造の責任者である三澤彩奈さんの仕事場。秋の収穫期は、寝る間もないほど忙しい日が続くそうです。

「通常は、朝6時ごろから収穫を始めます。ナイトハーベストといって、夜間から早朝に収穫を行う日もあります。温度の低い時間帯に収穫することで、より良いブドウの状態で作業することができるんです。甲州種のブドウの場合は、収穫した房を5〜6時間かけて絞り、それをタンクに入れた後、翌日の作業に備えて掃除をして…というのが作業の流れ。1日がかりの作業が、3カ月ほど続きます」

収穫期の忙しさは、その年のブドウの状況によって変わるそうです。ブドウ1粒1粒を目視で確認するのが、グレイスワインのやり方。病気にかかるブドウが多い年は、欠陥のある果粒をすべて手作業ではじくため、膨大な時間がかかるといいます。

ブドウを収穫した後の作業は、赤ワインと白ワインで異なります。白ワインの場合は、収穫後すぐにブドウを絞り、果汁を発酵させます。赤ワインの場合は、ブドウの果粒ごと発酵させた後、絞ります。

「果粒の選果や圧搾など、発酵前の作業が、ワイン醸造の生命線といっても過言ではありません。果汁やブドウが発酵したら、そこから先は酵母が主役です。ゆっくりと時間をかけ、酵母がワインの味を育てていきます」

三澤農場の敷地の一画に、ワインカーヴはあります。1年を通して15℃前後に保たれた空間で、樽の中のワインは機が熟す時を静かに待っています。

過酷な作業の中、ワインの神秘が癒しをくれる

手間と時間をかけ、科学的なアプローチを駆使して工程を重ねても、自分の手でコントロールできない変化がしばしば起こるのがワイン造り。そんな場面に直面する度に、「ワインの神秘に触れたような気持ちになる」と三澤さんは言います。

「夜中に作業場に行き、赤ワインのタンクをのぞくと、プツプツと発酵が始まっていることがあるんです。どんなに疲れていても、微生物が人知れず活動してくれている様子を目にすると、“私も頑張らなきゃ”と力が湧いてきますね」

もちろん、醸造家が直面するのは、必ずしも良い変化ばかりではありません。思いがけない時期に台風がきて、育てていた樹が倒れてしまうようなことも起こります。三澤さん自身、何度も「ワイン造りなんて辞めてしまおう」と考えたことがあるのだとか。

でもその度に、私にはワイン造りしかないと自分を奮い立たせるんです。そして、心が折れそうになったときでも、家族や社員など、支えてくれる人たちが側にいてくれる。そういう環境があるからこそ、苦しくても乗り越えられるのだと思います」

海外のワイナリーを巡って気づいた、日本ならではのワイン造り

三澤さんは2013年まで、南半球と北半球を行き来する生活を送っていました。作業の少ない冬季は、南アフリカや南米などにあるワイナリーへ赴き、勉強を重ねたそうです。

「さまざまな産地を見たことで、ワイン造りのノウハウというのは、その土地の文化や国民性に紐づいていることを知りました。海外のトップワイナリーや一流の醸造家の仕事を見ると、ワイン醸造において、日本は後進国だと考えてしまいがちです。でも、病果を1粒1粒はじくなど、きめ細やかな収穫を実践できるのは、日本人の繊細な気質があってこそ。海外のワイナリーで働いたことで、そういった日本の美点に気づくことができたんです」

ブドウの種類や気候に左右されるワインは、産地の個性が味に出るといわれます。しかし同時に、「造り手の個性も色濃く表現される」と三澤さんは話します。

「その年の自分がどんな選択をしたかが、ワインの味に如実に表れます。私にとって2014年は、南半球に行かずに、1年を通して畑を見た初めての年でした。愛情をたっぷりと注いだ2014年のワインを開けると、地に足が着いた気がした当時の気持ちがよみがえってきます

現在では入手困難となっている過去の甲州やキュヴェ三澤。甲州市勝沼にあるグレイスワインのショップでは、特製のワインケースも販売していました。

偉大なワインは、待つことで花開く

三澤さんが話すように、ワイン造りには愛情を注ぐことが不可欠ですが、もう一つ、忘れてはならない心の姿勢があるといいます。ブドウの樹が育つのを待ち、実が熟すのを待ち、絞った果汁が発酵するのを待つ−−−−。そう、良いワインを生み出すには、“その時”が訪れるのを粘り強く待つ姿勢が欠かせないのです。

「ワイン造りは、今日、明日でどうこうできない部分が多いんです。だから、たとえブドウの生育状態が悪くても、すぐにダメだと判断せず、しばらく様子を見ようと待つことも大切です」

待つ作業が多い分、醸造家は、物事を長期スパンでとらえる人が多いそう。「ワイン造りに没頭していると、時間感覚が普通ではなくなって、待つことが苦にならなくなるんです。50年後には、畑がこんなふうになっていたらいいな。私も、そんな風に思いを馳せることがよくありますね」

醸造家にとって、より良いワインを造るための時間経過は、喜びそのもの。待つことをいとわず、その時々の状態と丁寧に向き合うことで初めて得られる輝きがあるのだと感じます。美しい畑作りがおいしいワインを生み出すように、私たちの日々の行動が、10年後、20年後の姿を形作っていきます。自分自身を慈しみ、心を尽くして生活することが、歳を重ねる喜びにつながっていくのではないでしょうか。

醸造家にとって、樽選びも大切な仕事の一つ。木の種類や内側の焼き具合によって、ワインに与える香味成分が変わってくるそう。


二回にわたってお送りした三澤さんのインタビュー、いかがでしたか? じっくり待つこととは、未来の可能性を信じること−−。三澤さんにそう教えてもらった気がします。

私たちも、自分らしい美を育むために、ときには「時短」や「効率」という考え方から、少し距離を置いてもいいのかもしれませんね。

さて、第四回目は江戸小紋染職人の廣瀬雄一さんにお話を伺います。9月中旬ごろの公開をお楽しみに。


<プロフィール>
三澤彩奈(中央葡萄酒株式会社)/ワイン醸造家

1923年設立。中央葡萄酒株式会社の4代目オーナー・三澤茂計氏の長女として生まれ、幼いころからワイン造りに親しむ。ボルドー大学ワイン醸造学部DUAD卒業。南アフリカ・ステレンボッシュ大学院にてブドウの生理学コース修了後、ニュージーランド、オーストラリア、チリ、アルゼンチンなどのワイナリーで研鑽を積む。2014年、世界最大級のワインコンクール「Decanter World Wine Awards」にて、日本ワイン初の金賞を受賞。2016年には、「グレイス・エクストラ・ブリュット 2011」「グレイス甲州プライベート・リザーブ2015」でアジア初のプラチナ賞・ベストアジア賞を受賞した。

お買いものはこちら