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100年後まで残る、江戸小紋の粋|重ねるほどに美しく#5

第五回 : 100年後まで残る、江戸小紋の粋
廣瀬雄一さん(有限会社廣瀬染工場)

どうすれば、自分らしく歳を重ねていけるだろう? どうすれば、今日より明日、そして数年後の自分を楽しみに感じられるだろう?「重ねるほどに美しく」は、そのヒントを求めて、さまざまな分野で活躍する美の匠を訪ねる企画です。時の経過を大切にとらえ、未来に残る仕事を続ける職人たち。ここでは、そうした職人が生み出すものと、その一途な仕事ぶりから、年月を重ねることによって引き出される魅力を紐解きます。

第五回目の職人は、親子代々、江戸小紋を染め続けてきた染工場で当主を務める廣瀬雄一さん。伝統工芸のこれからを見据える廣瀬さんが考える、100年後まで残る「美しいもの」とは?

 

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江戸っ子が好んだ「粋」が、生み出される場所

新宿区中落合。高層ビルがひしめき合う都心部から離れた、閑静な住宅街の一画に、大正7年から江戸小紋を染め続けてきた「廣瀬染工場」はあります。 

着物の中でも、細かい模様や小さな柄を染めたものを「小紋」といい、その中でも特に細密な柄のものを「江戸小紋」と呼びます。主におしゃれ着として用いられ、着物通なら一枚は持っていたい染物です。

今年、創業100年を迎えた廣瀬染工場の四代目を務めるのが、廣瀬雄一さん。江戸小紋という日本が誇る伝統工芸を次の100年につなぐため、新しいブランドの立ち上げや、実験的な技法にも果敢に挑戦する、現代の匠です。

この日、まず最初に廣瀬さんが案内してくれたのは、使い込まれたモミの一枚板が整然と並ぶ作業場。壁にかけられた刷毛やヘラ、染料の入ったボウルなど、すべての道具がきちんと手入れされ、清々しい気配を放っています。

「作業場や道具を見れば、職人の腕は一目瞭然。何百年と続く老舗であっても、道具が手入れされていなければ、作り上げた作品はチープに映ります。導線に無駄がなく、丁寧に磨き上げられた作業場なら、職人の意気も上がりますからね

微妙な揺らぎが、豊かな風情を演出する

江戸小紋のルーツは、上着と袴からなる江戸時代の武士の礼装服「裃(かみしも)」にあります。一見、無地に見えますが、近づくと細かい柄がびっしり。さりげなく手間のかかった衣装をまとうのが粋であるとして、この新たな染物文化は庶民にも広がっていきました。 

「一見地味だけど、見る人が見ればこだわり抜いたとわかる。そういう美意識は、日本人特有のものかもしれませんね」と廣瀬さんは話します。江戸小紋の細密な模様は、「伊勢型紙」と呼ばれる型紙を使って染めたもの。熟練の職人が、柿渋で張り合わせた紙を使い、ミリ以下の精緻な模様を一つひとつ彫り抜いて作られます。

「今はレーザーカッターなどでも型紙を彫ることができますが、あまりに整いすぎていると味気なさを感じてしまうのが、人間の目の不思議なところ。一流の職人の手による型紙は、“模様が群れとなって動く”といわれます。その言葉の通り、模様全体が生き生きと躍動するようで、パッと目に入ってくる。機械では作り出せない微妙な揺らぎが、えも言われぬ風情を醸し出すんです」

江戸小紋の中でごまかしの効かない柄の一つと言われる、「うろこ柄」。シンプルな柄だけに、その一つ一つを潰さないように染める高度な技術が必要となる。

人間の限界に挑み、美しさの高みへ

モミの長板に白生地を張り、型紙をのせてヘラで糊を置いていく「型付け」、色糊で生地を染めていく「しごき染め」、染料を定着させる「蒸し」、水洗いした生地を乾燥させる「天日干し」、ムラのある部分などを筆で修正していく「地直し」。いくつもの手間のかかる工程を経て、やっと一反の小紋が完成します。

この日、作業場の長板の上には、すでに型付けの終わった生地が張られていました。「今からしごき染めをお見せしますね」と言いながら、廣瀬さんが生地の前に立った瞬間、作業場の空気がピリッと張り詰めます。

長板の端から端へと移動しながら、左官が壁を塗るように、均一に色糊を広げていく廣瀬さん。あまりの緊張感に声をかけることをためらっていると、「工芸は、人間の限界への挑戦なんです」と廣瀬さんがふいに口を開きます。真に美しい工芸品は、人から人へ、時代を超えて愛されていく可能性を秘めています。そうした工芸品を自らの手で生み出すためには、限界を超えてゆこうとする熱意と、たゆみない精進が欠かせないのだというのです。

「だからといって、伝統工芸の技術を後世に残していかなければと、使命感を背負っているわけではありません。僕はただ、江戸小紋の美しさに魅せられているだけ。この美しさを、もっともっと極めていきたい。そのシンプルな想いが、僕を突き動かしているんです

自分にしか出せない味わいを求めて。いい職人の定義とは?

染工場の中には、「型付け担当の職人」「地直し担当の職人」など分業体制を取っているところも少なくありません。廣瀬染工場でも効率を重視して、昔は分業体制を取っていました。ところが、弟子に色糊の配合を任せたところ、何度やっても思い描いていた色を出せなかったのだとか。

 「それは、弟子の技術の問題ではなく、私との感覚の違いなんですよね。面白いことに、1人の職人が1から10まですべての工程を手がけた方が、作品の完成度は高くなります。それはきっと、職人が目の前の仕事に“自分ごと”として向き合うから。そうしてできた江戸小紋には、その職人にしか出せない味わい、つまり“作家性”がにじみ出てくるんです」

「年齢を重ねるほど、職人の作家性は磨かれていくものですか?」と廣瀬さんに問いかけたところ、興味深い答えが返ってきました。「すべてはその人の生き方次第だと僕は思います。なぜなら自分の信じる美しさを追い求め続けた70歳の職人と、言われたものだけを作ってきた70歳の職人とでは、生み出すものの熱量がまったく違いますから」。年齢を重ねるだけではなく心に情熱を秘め、高みに向かって歩み続ける人が魅力的に映るのは、職人の世界だけにとどまらないでしょう。

「江戸小紋の世界にも、とてつもなく人を惹きつける作品というのがあるんです。僕は3年ほど前にある染師の作品に出会い、江戸小紋の奥深さに目を見開かされました。自分もこの手で、理屈を超えた感動を味わってもらえるような染物を作りたい。まだまだ、道半ばですね」

生地を貼り付ける長板が並べられた、小紋染めのための作業場。長さ約6mの板の表面と裏面を使い、一反(約12m)の生地を貼りつけます。


廣瀬さんが生み出す江戸小紋の奥深い魅力、いかがでしたか? 「信じる美しさを追い求める職人」の話は、私たちの生き方にも通じるものがありますね。美しさを深めていくには、目の前のものを“自分ごと”としてとらえ、じっくり向き合う姿勢が大切。そんなことが伝わってきました。

さて、次回のテーマは、「技だけではない、伝統工芸の継承」。廣瀬さんの、伝統を受け継ぐための新たな挑戦とそのマインドを教えていただきます。9月下旬ごろの公開をお楽しみに。


<プロフィール>
廣瀬雄一(有限会社廣瀬染工場)/染師

1978年、東京都生まれ。廣瀬染工場四代目。10歳から始めたウインドサーフィンでシドニーオリンピックの強化選手として活躍。選手時代に世界各地をまわり、大学卒業後は家業の「染め物」という日本の伝統文化で、海外に挑戦する夢を抱く。江戸小紋を世界中に発信するビジョンを実現すべく、国内外の展示会参加や個展、ストールブランド「comment?」立ち上げなど、意欲的に活動している。

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