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伝統に革新を。積み重ねることで見えた次なる挑戦|重ねるほどに美しく#6

第六回:伝統に革新を。積み重ねることで見えた次なる挑戦
廣瀬雄一さん(有限会社廣瀬染工場)

どうすれば、自分らしく歳を重ねていけるだろう? どうすれば、今日より明日、そして数年後の自分を楽しみに感じられるだろう?「重ねるほどに美しく」は、そのヒントを求めて、さまざまな分野で活躍する美の匠を訪ねる企画です。時の経過を大切にとらえ、未来に残る仕事を続ける職人たち。ここでは、そうした職人が生み出すものと、その一途な仕事ぶりから、年月を重ねることによって引き出される魅力を紐解きます。

前回に引き続き今回も、四代にわたって江戸小紋を染め続けてきた染工場の当主・廣瀬雄一さんにお話を伺います。廣瀬さんがたどり着いた、伝統工芸の世界で経験を積み重ねることで生まれた独自の価値観とは?

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ヴィンテージのデニムに着想を得た、新しい染めの技法

大正時代に創業し、今年100周年を迎えた廣瀬染工場。この夏は、表参道にあるギャラリーで、初の大規模な展覧会を開催しました。「100周年を祝うだけでなく、この先100年を見据えた展覧会にしたかった」と廣瀬さん。そのため今回は、破れた型紙を用いて染めるなど、これまでタブーとされていた表現にも挑戦したといいます。

この実験的な江戸小紋の発想は、ヴィンテージのデニムからきているのだそう。「破れた型紙で染めることで、ストリートファッションのような軽やかな風合いを醸し出せるはず」と廣瀬さんは考えました。

「親父が若かった1960年代は、ジーンズが破れたら捨てていました。ところが今、クラッシュジーンズはすっかり市民権を得ています。価値観というものは、半世紀で、時にはたった数年で変わることもある。だから江戸小紋にも、今までの価値観をひっくり返すような作品があってもいいのではと思ったんです」

とはいえ、「革新にも、粋なやり方と無粋なやり方がある」というのが廣瀬さんの持論。前衛的な表現にこだわるあまり、本来の美しさが削がれてしまった伝統工芸品を、これまでいくつも見てきたといいます。

「自分が美しいと感じないものを、僕は染めません。“江戸小紋をより美しい形で表現すること”を前提に、新しい技法にも果敢に挑戦していきたいですね」

作業場の奥には、数え切れないほどの型紙と柄見本帳が収蔵されていました。明治や大正に作られた柄であっても、現代にマッチする、新しさを感じるものばかり。

色はその人そのもの。自身のルーツが、作品ににじみ出る

「老舗の染工場は、それぞれ独自の技法を持っています」と廣瀬さん。廣瀬染工場の真骨頂といえるのが、伝統的な柄の上に、別の柄を重ねて染めていく「二重鮫」と呼ばれる技法です。柄を重ねて染めることで、今まで表現できなかった模様を生み出せるのが、二重鮫の特徴だといいます。

色合いも、職人によってそれぞれ微妙に異なるのが染物の世界。「色はその人そのものです」と廣瀬さんは言います。たとえ染料を同じ比率で混ぜ合わせたとしても、染める人によって千差万別の表情が生まれるのが、江戸小紋の奥深いところ。それはきっと、「世界を見つめるときのレンズが、一人ひとり異なるから」だというのです。

「最近は青系の色ばかり染めてしまう」と、廣瀬さんは笑います。青へのこだわりは、自身のルーツに関係しているのかもしれません。元ウインドサーフィンの競技者という異色の経歴を持つ廣瀬さん。オリンピック強化選手に選ばれるほどの実力でしたが、家業を継ぐとともに引退を決意しました。職人の道を選ぶことが、もう一つの道を断つことにつながったのです。

「先日、宇多田ヒカルさんが、テレビ番組で“喪失から生まれてくる音楽が、人の心に響く”と話していました。その言葉を自分と重ね合わせたときに、世界中の海を見てきたからこそ表現できる色彩や柄が、私の持ち味だと感じたんです。職人の道を選んだことを後悔はしていません。人生の振り子の幅が大きいほど、表現できる幅も広がるはずですから」

工房では、染料の色出し試験用の鍋が並んでいました。濃く鮮やかな色味は、実際に染め上げると、江戸小紋特有の淡い色彩に変化します。

江戸小紋を、普段着感覚で。廣瀬さんの新たな挑戦

そんな廣瀬さんが今、情熱を注ぐ新たな試みがあります。ハレの日を飾るおしゃれ着としてだけでなく、もう少し日常に寄り添った形で、江戸小紋の魅力を人々に伝えられないか−−。そう考えて、江戸小紋の技法を用いたストールのブランドを立ち上げたのです。

「ストールなら、日常的にサッとまとうことができます。洋服にも合わせられるブランドを提案したのは、江戸小紋の世界では恐らく初めてではないでしょうか」

ブランド名は「comment?(コモン)」。フランス語と江戸小紋をかけ合わせた、ウィットに富んだネーミングには、「まずはストールで江戸小紋の良さに触れ、ステップアップとして着物にも挑戦してほしい」という廣瀬さんの願いが込められています。

実際、ストールを入口に江戸小紋の繊細さに魅了され、繰り返し店に足を運ぶ人も増えているとか。その中には、若い層や海外の顧客も含まれているといいます。ごまかしのきかない職人の技、それを日常でまとうという、江戸っ子が大切にしていた「粋」を現代に問うブランドといえるのかもしれません。

洋服にもしっくり馴染む「comment?」のストールたち。左端のストールは、星柄と波柄を組み合わせた二度染めで、モダンな仕上がりに。

心から心へ。職人の精神性が問われる、シンプルな柄

親子代々、技術を受け継ぐのが一般的となっている伝統工芸の世界。次世代に技を継承することについて、廣瀬さんはどのように考えているのでしょう? そう問いかけると、しばらく間を置いた後、こう語ってくれました。

「以前、ある先生から“心から心へ伝えていかなきゃね”と言われたことがあるんです。どれだけ技に精通しているかだけでなく、どのような想いで挑んできたかが大切。なぜなら、技と心が渾然一体となって初めて、作品は息を飲むほどの輝きを放つからです。そういった心を理屈抜きに伝えやすいのが、親子関係なのだと思います」

職人の“技と心”が究極に試されるのが、江戸小紋の真髄といわれるシンプルな柄だと廣瀬さんは話します。一見、単純な柄ほどごまかしが利かないため、職人の技術と精神性が否応なく表れてしまうのだとか。

私たちの生き方にも、同じことが言えるかもしれません。物や情報にあふれる現代において、目新しさに惑わされず、本質を見極めてシンプルに生きるには勇気が必要です。だからこそ、自身の想いを貫き通す人の強さと、凛とした美しさに、私たちは惹かれるのではないでしょうか。

時代に合わせて形を変化させつつも、伝統工芸の美の真髄を伝えていくのが、廣瀬さんの仕事です。私たちも、一時的な流行にとらわれず、自分の美意識に従ってまっすぐに生きていきたいもの。ブレない芯を持っていれば、変化を楽しみながら、歳を重ねていくことができるはずです。


二回にわたってお届けした廣瀬さんのインタビュー、いかがでしたか? 「シンプルな柄ほど、その人の精神性が表れる」という言葉から、積み重ねてきたことで行き着いた新たな価値観を感じ取れました。

日々の生活の中で、どんな瞬間に心が動くのか、少しだけ敏感に耳を澄ませてみる。そうすることで、自分が何を美しいと感じ、何を大切にして生きていきたいか、輪郭がより鮮明になる気がします。自分らしく歳を重ねるためのヒントは、何気ない日常の中にこそ見出せるものではないでしょうか。


<プロフィール>
廣瀬雄一(有限会社廣瀬染工場)/染師

1978年、東京都生まれ。廣瀬染工場四代目。10歳から始めたウインドサーフィンでシドニーオリンピックの強化選手として活躍。選手時代に世界各地をまわり、大学卒業後は家業の「染め物」という日本の伝統文化で、海外に挑戦する夢を抱く。江戸小紋を世界中に発信するビジョンを実現すべく、国内外の展示会参加や個展、ストールブランド「comment?」の立ち上げなど意欲的に活動している。

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