
人生をお気に入りにする|名フレーズに学ぶあなたらしさのヒント#10
ここちよく、前向きに生きるためのヒントを、著名な女性の言葉や映画のセリフなど、今なお色鮮やかに残る“名フレーズ”から導きます。
どんなことがあっても自分の人生のヒロインでいてください。犠牲者になってはいけません
Above all, be the heroine of your life, not the victim.
ノーラ・エフロン( 脚本家・映画監督/1941- 2012)
ロマンティック・コメディの名作『恋人たちの予感』(1989)の脚本や、自身の監督作『めぐり逢えたら』(1993)、『ジュリー&ジュリア』(2009)で知られるノーラ・エフロン。
映画のタイトルを並べるだけでも、彼女の書いたウィットの利いた数々の名台詞が心に浮かびます。ハリウッドでここまでの成功を勝ち得た女性の映画人は、ノーラ・エフロンの世代では滅多にいません。
もともとはジャーナリストで、映画脚本家に転身したのは40代のとき。それまでの人生は、一筋縄ではいきませんでした。その紆余曲折(うよきょくせつ)についても、彼女は自分のエッセイでユーモアを交えて書いています。
1996 年、ノーラ・エフロンは母校のウェルズリー大学の卒業式に招かれて、スピーチを行いました。
彼女が大学に通っていた50年代末から60年代はじめは、まだまだ保守的な時代。卒業後の進路について学部長に相談すると「学問はもう充分だから、結婚したら家庭に専念したほうがよい」 とアドバイスされて驚いたといいます。エフロンの多くの同級生たちも、学んできたことを活かす機会をもっと持ちたかったと言っていたそうです。
エフロンが若い頃と、現代は事情が違うかもしれません。しかし女性が大きく羽ばたこうとするときに、それを阻もうとする壁はまだまだあると彼女は学生たちに言います。それでも世間のプレッシャーに負けて、悔いが残るような人生を送ってほしくない。「自分の人生のヒロインでいてください」というこの明るい励ましの言葉に、ノーラ・エフロンは厳しさもにじませています。
若い世代は彼女の同級生たちとは違い、意に染まない人生を送る必要がない。これからの人生においてどんな物語を紡(つむ)いでいくのか。それは自分の責任です。仕事や恋愛でつまずきながらも前に進む、エフロンの映画のヒロインたちを思い起こさせる言葉でもあります。
「今から、あなたたちの人生最良の日々が始まります」と彼女はスピーチを締めくくって後輩たちを送り出したのです。
引用元:ウェルズリー大学の卒業式の来賓スピーチ(1996) 訳:筆者
Profile
山崎まどか
コラムニスト、翻訳家。『ビバ! 私はメキシコの転校生』(偕成社)でデビュー。著書に『優雅な読書が最高の復讐である』(DU BOOKS)など。
イラスト/黒木仁史 構成/中島宏枝