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きょうの夢ごこち|小林エリカさんエッセイ#7

作家・小林エリカさんのスペシャルエッセイをお届けします。

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きょうの夢ごこち|小林エリカさんエッセイ#7

シフォンケーキを焼いたら、底に巨大な穴があいてしまった。インターネットで検索したら、かの現象を「底上げ」と呼ぶらしい。解決法は、しっかり卵黄と油と水分を混ぜ合わせることと、オーブンの温度を高めに設定すること。なるほど、と思ってふたたびシフォンケーキをつくってみた。しかし、焼き上がったシフォンケーキをオーブンから取り出してみると、今度は内側におおきな穴があいていた。かの現象は「空洞」と呼ぶらしい。

「私たちがスフレの中心温度より、惑星や太陽の中心温度のほうをよく知っているというのは奇妙なことである」。ハンガリー生まれの物理学者であり、低温調理を提唱したニコラ・クルティの言葉である。

 

私は以後もシフォンケーキづくりに4回ばかり挑戦したが、未だその完璧な姿をこの目にしていない。レシピだって、何度も読み返したし、動画でまで手順を確認したのに、なんと惨憺(さんたん)たることか。ノーベル賞を受賞した科学者マリ・キュリーが、夫ピエールとの結婚後、自ら料理を習得したというのをその伝記で読んだことがある。科学実験の正確さをもってして素材を量ったりかき混ぜたりして、その手腕はなかなかのものだったとか。

気を取りなおし、かのクルティを師として、低温調理器を購入してみた。湯を一定の温度に保つことができる機械である。真空パックした(あるいはジッパー付き保存袋に入れた)肉をその湯の中に何時間か放置しておくだけで、素晴らしく肉が柔らかく美味しくできあがる。実に革命的な調理方法である。こちらは失敗なく完成できた。

 

いまこそ私が取り組むべきは、惑星や太陽のみならず、料理という宇宙について、まずはいちから学ぶことかもしれない。

 

 

文と絵
小林エリカ

作家・マンガ家。『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)で芥川賞・三島賞候補に。新刊は光の科学史を辿る『光の子ども3』(リトルモア)、『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(集英社)

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