肩こり、腰痛、関節痛…。これも更年期症状?|なんでも相談室「今日はどうされましたか?」#28
〈隔月10日更新!〉スキンケアに関する疑問から、カラダのお悩み、生活習慣のことまで、みなさんが気になることならなんでもOKの相談室。毎回、1つの悩みをテーマとして取り上げ、お答えしていきます。
- 相談員 内田美穂
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産婦人科専門医。自身も長年、患者として婦人科にかかってきた経験をもとに、理想を形にした「フィデスレディースクリニック」を開院、統括院長に。科学的根拠に基づく正しい性教育、ダイバーシティについて企業や学校での講演活動を行う他、クリニックのYouTubeチャンネル「産婦人科医 Dr.内田美穂 女性のためのヘルスケアガイド」でも情報を発信している。
- 助手 清水 尚美
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元美容メディア編集者。50代を過ぎた頃から母が 手指の関節や膝の痛みを訴えるように。もともと手先が器用だったのに、痛みが強い日は何かを握ったり紐を結ぶような動作も難しく感じるのだそう。また、伯母と母の“関節痛あるあるトーク”も耳にし、将来に備えて知識をつけておきたいと思っている。
本日のお悩み
50代になってから、 原因不明の関節痛に悩まされています。
50代を迎えて、体の節々に痛みを感じるようになりました。特に手指と腰が痛くて…。整形外科で診察を受けましたが、骨に異常はないと言われます。原因が分からないので対策・ケアができず困っています。
300以上もの症状が報告されている、更年期の悩み

清水原因不明の関節痛…。先生、何か考えられる原因はありますか?

内田50歳以降から痛みを感じ始めたとのことなので、女性ホルモンの低下と関係があるかもしれません。更年期世代ほど肩こりや腰痛、関節痛を訴える方が多い傾向にあります。

清水体のコリや痛みも、更年期症状の一つなのですか?

内田実は更年期には300以上もの具体的な症状が挙げられています。その多くが特定の原因に限定されない不定愁訴 (ふていしゅうそ)。つまり、女性ホルモンの変化が原因とは断定できず、はっきりとした原因は分からないというものになります。

清水確かに、体のコリや痛みは年齢関係なく現れるものだから、更年期に入ってその症状をより強く感じるようになったからといっても、女性ホルモンの変化が原因とは言いきれないですね。いろんな要因が複雑に絡み合っていそう…。

内田そうなんです。そのため「不定愁訴」とまとめられています。とはいえ、数多くある更年期症状の中には、明らかに女性ホルモンの変化により引き起こされるものも。更年期に訴えの多い症状は、主に以下の4つに分類されます。上から順に、女性ホルモンの変化と関係が深く、多くの女性が経験する症状と言われています。
ホットフラッシュ、めまい、不安などの症状については、こちらをCHECK!

清水今回のお悩みで取り上げるのは「④身体症状」ですね。

内田そうですね。しかし、原因は更年期だと断定できない点には注意しなければいけません。例えば「肩こり」は更年期世代の女性が訴える症状の第1位ですが、女性ホルモンと肩こりの関連を示す科学的な研究・報告はほとんどありません。姿勢の悪さや運動不足、眼精疲労、うつ病など、考えられる要因が多岐に渡り、それらが複数重なり症状を感じている可能性もあります。
どう関係してる? 女性ホルモンの変化と体の節々の痛み

内田原因特定が難しい“痛み”の症状ですが、「関節痛」は、女性ホルモン・エストロゲンの分泌量の低下との関連性が指摘されています。手指や膝の関節、つまり、骨と骨の間には滑膜(かつまく)という関節を覆う薄い膜状の組織があり、関節がなめらかに動くようサポートしています。

内田この滑膜にはエストロゲンの受容体が多く存在しているんです。エストロゲンの分泌量が減少することで滑膜が腫れ、ばね指やブシャール結節、へバーデン結節が見られるという報告がされています。

清水エストロゲンの低下が関わっている場合なら、大豆イソフラボンなどを摂ることでいい効果が期待できたりするのでしょうか?

内田そうですね。大豆イソフラボンの代謝により生成される成分・エクオールの摂取で、腫れや痛みに改善が見られた例がありますし、ホルモン補充療法で関節痛の発症を予防する可能性も。運動不足や脊椎、婦人科疾患などが原因ではない腰痛についても、ホルモン補充療法が有効と言われていますが、ここで注意しなければならないのは、関節痛や腰痛だけではホルモン補充療法の適応にはなりません。あくまでホットフラッシュなど血管運動神経症状を伴っていることが前提となります。

内田また、遺伝や手の酷使などの環境、加齢、リウマチなどの他の疾患の影響も十分ありえますから、関節痛の緩和のためだけにホルモン補充療法をするのはおすすめできません。

清水予防ができるなら良さそうに思いますが…。

内田そもそも、ホルモン補充療法には胸の張りや不正出血、血栓症、子宮体がん、卵巣がんなどのリスクもあります。もちろん、最終的にはご本人次第。一般的には、生活に支障が出るレベルのホットフラッシュやめまいといった症状があり、ホルモン補充療法を選択するので、そのついでに関節痛の緩和も期待するといったケースが多いですね。
身体の変化×性格×社会的・環境的要因が、更年期症状の個人差を生む

内田加齢によるエストロゲンの減少は誰もが経験すること。それなのに症状に大きな個人差が見られるのは、エストロゲン以外の要因が深く関係しているからです。本人の性格、家庭や仕事でのストレスといった社会的・環境的要因が複合的に絡み合い、症状となって現れます。

清水そうなると、対策・ケアも一筋縄ではいかないですね。

内田そうですね。でも、ライフステージによって女性の身体が、女性ホルモンがどう変化していくのかは、みなさんに共通することとして事前に知ることができます。

内田10代から20代、20代から40代、40代後半以降から、それぞれの時期になりやすい病気、症状があります。自分の年齢とともにこういった変化が起きることは、基礎知識として知っておいた方がいいですね。早いうちから対策を取ることが、その後のQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)の向上にも繋がります。

清水知っておくことで検診への意識が高まったり、心の準備に繋がったりしそうです。婦人科系の疾患は遺伝的な要素も関係するという話を聞いたことがありますが、親族に婦人科系の病気を患った人がいる場合は、特に気をつけた方がいいのでしょうか。

内田遺伝要因に関しては、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)という遺伝性のがんの1つが挙げられます。該当する方は乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんなどの発症リスクが高いことがわかっており、ご家族のがんの種類などからHBOCが心配な場合、自費になる可能性はありますが、遺伝カウンセリング後に採血検査を受けることができます。がん予防のためには、禁煙、バランスの取れた食生活、節度のある飲酒、適正な体重維持、身体活動を増やすなど、日々の生活習慣を意識することが大切ですね。

清水毎日の生活が予防につながるんですね。

内田それだけでなく、「恐れは常に無知から生じる」というアメリカの思想家の言葉にあるように、科学的な根拠に基づいた正しい知識を得ることも心がけていただきたいです。それは本人だけでなく、周りのパートナーやご家族、友人、同僚・上司など、日本の社会全体で知識をつけていかなければいけないことだと考えています。
周りを頼り、体の変化を受け入れる。更年期症状との向き合い方

清水早いうちから対策することでQOLの向上に繋がるということですが、今まさに症状に悩んでいる方も含めて、どういった対策をしていけばよいでしょうか?

内田不定愁訴であることが多いですから、体のベースを整えることが第一。具体的には、以下のことを実践しましょう。

内田そして、婦人科のかかりつけ医を作ること。更年期症状はもちろんですが、生理痛や不正出血でも自分で抱え込んだり、我慢したりするのではなく、普段から婦人科の先生に聞くスタンスを持っていただきたいです。40代後半になると生理周期が乱れてきますし、50歳前後から子宮体がんが増えてきます。

内田子宮頸がんはよく耳にすると思いますが、日本では子宮体がんの方がかかる人が多いんです。不正出血から気づく場合が多いので、「不正出血くらい」と思わず婦人科の受診を。また、更年期症状については、対策はできますが、ゼロにする治療はできません。ですので、症状の完全な消失ではなく、QOLの向上を最終目標にしていきましょう。

清水QOLの向上のために、前述していただいた生活習慣の改善以外に、何かポイントはありますか?

内田身の回りにいる人たちにも知識をつけてもらうことだと思います。女性の健康課題というのは当事者だけが知っていればよいのではなく、自分が体調不良に陥った時に、周りの人がどう対応すればいいのか知っている状態であること、つまり、協力・サポート体制が大切です。

清水自分一人で解決しよう、頑張ろうとするのではなく、自分の状況を家族と共有して理解を求めることも大切ですね。たとえば、「指が痛くて細かい作業ができないことがある」「今日は倦怠感で起きているだけでつらい」など、事前に話しておくとか。

内田一人で頑張る必要は全くありません。その協力・サポート体制には、もちろん私たち、産婦人科医も含まれますから、気軽に相談してほしいなと思います。
本日の学び
私自身、数年前に月経困難症の治療を機にピルを飲み始め、産婦人科のかかりつけ医ができました。エコーの検査や先生との問診で日々の体調を見直すきっかけができましたし、定期健診以外でも気になることがあれば相談できる環境にあるのでとても心強いです。まだまだ生理や更年期は“病気ではない”という考えが多く、「このくらいで受診するなんて」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、更年期世代のみなさんは自分のことを後回しにしてでも、忙しい毎日を頑張っている方が多い気がしています。ぜひ「こんなこと」と思わずに、ご自身のケアをしてあげてください。(清水)
監修/内田美穂
編集/間野加菜代(Cumu)
イラスト/itoaya
























